対馬名物かすまきの真実!歴史の謎と名店の違いを現地から徹底追跡
かす まきという、長崎県対馬の地に息づく素朴ながらも重厚な郷土菓子が、今ふたたび全国の甘党たちの視線を集めている。カステラ風のふっくらとした生地で、これでもかと言わんばかりの餡(あん)をくるりと巻き上げたその姿は、一見するとどこか武骨だ。しかし一口頬張れば、卵の芳醇なコクと砂糖の潔い甘さが口いっぱいに広がり、かつて国境の島を治めた藩主たちが味わったであろう贅沢の余韻へと引き込まれる。
厳原(いづはら)の古い町並みを歩くと、老舗の軒先から甘く香ばしい匂いが立ち上ってくる。対馬の暮らしに根を下ろすかす まきは、冠婚葬祭の引き出物から日々の手土産に至るまで、島民の人生の節目に寄り添い続けてきた。日本本土から玄界灘を越えて訪れる旅人を魅了してやまないこの和菓子の奥深さを、現地取材から紐解いていこう。
宗義成の帰還を祝った贅沢な甘味――江戸時代から続く知られざる歴史

歴史の針を江戸時代初期、寛永年間へと巻き戻す。発端は、対馬府中藩の第2代藩主・宗義成(そう よしなり)が、江戸での長期にわたる参勤交代から無事に島へ帰還したことだった。
過酷な海路を越えて主君が戻った喜びを分かち合うため、家臣や町人たちが知恵を絞って献上したのが、この菓子の始まりと伝えられている。当時、砂糖は長崎出島を通じた貿易によってもたらされる最高級の貴重品。それを惜しげもなく餡と生地に使い、南蛮渡来のカステラ生地で巻いた贅沢極まりない菓子は、藩主の旅路の労をねぎらう特別な祝い菓子だった。
「カステラで巻く」から「かすまき」。その明快すぎる名付けの裏には、鎖国下の日本において大陸との外交窓口を担った対馬ならではの、豊かな異文化受容の歴史が色濃く刻まれている。
対馬名物「かすまき」の知られざる歴史と名店の違い・最新人気ランキング

島内には現在も十数軒の製菓店が存在し、それぞれが独自の配合と巻きの技術を競い合っている。見た目は似通っていても、生地の厚み、餡の糖度、さらには小豆の粒感に各店の哲学が宿る。本物を味わいたい旅行者のために、長年支持を集める名店の特徴と最新の評判を整理した。
筆頭に挙げられるのが、厳原の中心街に店を構える「江崎たい平堂」だ。創業以来守り続ける黒餡は濃厚で舌触りが滑らか。生地のしっとり感とのバランスが絶妙で、伝統派の王道として揺るぎない支持を集める。一方、「渡辺菓子舗」のかすまきは、白餡の軽やかさと上品な甘みが特徴で、若い世代や女性客からの指名買いが絶えない。
近年人気を二分している「山田松月堂」では、小豆の風味を力強く残した粒餡が際立ち、どっしりとした食べ応えを好むファンを唸らせている。お茶請けとしての相性、あるいは日持ちの観点からも各店に個性があり、島を訪れたなら複数店舗の食べ比べこそが最大の醍醐味といえるだろう。
『マツコの知らない世界』やNHK『鶴瓶の家族に乾杯』が火をつけた全国的ブーム

対馬のローカルな郷土菓子であったかすまきが、日本全国のお茶の間で脚光を浴びた契機はテレビメディアの影響が大きい。NHKの人気番組『鶴瓶の家族に乾杯』で対馬の温かな人情とともに紹介され、その素朴で圧倒的な存在感が視聴者の心をつかんだ。
さらに拍車をかけたのが、TBS系『マツコの知らない世界』での特集だ。スタジオで一口食べたマツコ・デラックス氏がその素直な美味しさと重量感に感嘆の声を漏らすと、放送直後から全国の百貨店やアンテナショップに対馬からの空輸便を求める問い合わせが殺到した。
現在ではYouTubeなど動画共有サイトでも、旅系インフルエンサーや和菓子愛好家が現地実食動画を相次いで公開。「断面萌え」するぎっしり詰まった餡のビジュアルがSNS上で拡散され、デジタルネイティブ世代の旅行者を引き寄せる強力な導線となっている。
職人が手巻きで命を吹き込む伝統製法――長崎県菓子工業組合が支える製菓業の矜持
どれほど機械化が進もうとも、かすまきの真髄は職人の「手の感覚」にある。銅板の上で一枚ずつ均一な厚みに焼き上げられる生地は、その日の気温や湿度によって火加減の微調整が欠かせない。
熱々の生地が焼き上がると、職人は迷いのない手つきでたっぷりの餡をのせ、専用の布巾を使って一気に巻き上げる。一瞬の遅れが生地の割れを招き、力の入れ具合ひとつで断面の美しさが崩れてしまう。まさに製菓業の粋を集めた熟練の手仕事だ。
地域の食文化を次世代へと継承するため、長崎県菓子工業組合も衛生管理の高度化や原材料の安定確保など、後方支援を惜しまない。職人たちの誇りと組織的な支えが合わさることで、数百年にわたる伝統の味は今なお色褪せることなく守られている。
観光業の起爆剤へ――対馬市観光物産協会と職人たちが描く新たな未来
国境の島・対馬において、かすまきは観光業を力強く牽引する象徴的なアイコンへと進化を遂げている。対馬市観光物産協会は、港湾施設や空港での特設販売に加え、パッケージのリニューアルや個包装化の推進など、現代の旅行需要に即したブランディングを展開中だ。
かつては一本丸ごとの棹(さお)菓子スタイルが主流だったが、近年は食べ歩きしやすいハーフサイズや、対馬産のお茶や地酒とのペアリングセットなど、新たな商品開発が活発化している。歴史ある和菓子という枠組みを守りつつ、時代の変化に柔軟に適応する姿勢こそが、旅人の足をこの島へ向かわせる原動力だ。
独自取材で見えた裏話:地元民だけが知る「焼き立て」と「寝かせ」の真実
今回の現地取材中、ある老舗の店主が小声で教えてくれた興味深い事実がある。「実は、焼いた当日よりも翌日や翌々日の方が、生地と餡が馴染んで断然美味い」というのだ。
焼き立ての魅力は、香ばしい皮の歯切れの良さと温かい餡の滑らかさにある。だが、一晩寝かせることで餡の水分がじんわりと生地へと移り、全体がしっとりと一体化して深みのある甘さへと変化する。島民の中には、あえて購入後2日待ってから切り分けるツウも少なくない。
対馬の自然と歴史、そして職人たちの実直な情熱が詰まったかすまき。そのずっしりとした重みを手にした瞬間、あなたはきっと、遥かなる玄界灘の風と人々の温もりを肌で感じることになるはずだ。 (出典: かす まき(Yahoo!ニュース))