栗東と美浦の「西高東低」は終焉?坂路改修と2026年最新勢力図の全貌
日本競馬界で長年にわたり語り継がれてきた「西高東低」という言葉。かつてG1レースの表彰台を関西馬(栗東所属)が独占し、関東馬(美浦所属)が苦杯を舐め続けた時代は、競馬ファンの間でも共通認識となっていました。しかし、2023年秋の美浦坂路改修を皮切りに、トレセンを取り巻く環境は劇的な変貌を遂げています。
2026年現在、東西の力関係はどこまで変化し、どのような最新勢力図を描いているのか。調教施設のスペック差、外厩(育成牧場)の進化、輸送負担のリアル、そして騎手・調教師の意識改革まで、東西格差が生まれた根本原因と美浦の猛追劇を徹底解剖します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:かつての「西高東低」は坂路の勾配差と施設運用の差が生んだ構造的格差だった。
- 要点2:美浦坂路の大規模改修(高低差33m化)と外厩天栄の躍進が美浦復活の決定打となった。
- 要点3:2026年現在は完全な東西拮抗時代へ突入し、厩舎ごとの育成ノウハウ勝負にシフトしている。
【西高東低の真相】なぜ栗東が美浦を圧倒してきたのか?歴史と構造的格差

1980年代半ばまで、日本競馬は「東高西低」の時代でした。シンボリルドルフやミスターシービーといった名馬が美浦から誕生し、関東優位の時代が続いていたのです。その力関係を根底から覆したのが、1985年に栗東トレセンへ先行導入された「ウッドチップ坂路コース」でした。
坂路調教は、平坦なコースと比べて馬の脚元(腱や関節)にかかる負担を軽減しながら、心肺機能と後肢の筋肉を効率的に強化できます。栗東が坂路を駆使して鍛え上げた「栗東馬」は、圧倒的なスピードとパワーを身につけ、1990年代からG1戦線を席巻。一方の美浦は1993年に坂路を新設したものの、敷地条件の制約から勾配が緩く、栗東ほどの負荷をかけられない状態が長く続きました。
この施設格差が原因で、「走る馬=関西の有力厩舎へ預ける」という馬主や生産者の流れが定着。「良血馬が栗東に集まり、結果を出してさらに良血馬が集まる」という循環が完成し、約30年にも及ぶ西高東低の黄金パターンが固定化されたのです。
【調教施設の比較】美浦坂路の大規模改修がもたらした革命的な効果と現在

栗東と美浦の施設格差を象徴していたのが、坂路の高低差とコース設計でした。改修前の美浦坂路は高低差が約18mにとどまり、ラストの追い比べで踏ん張りが利かない原因と指摘されていました。対する栗東の坂路は高低差32mを誇り、最後の1ハロンで強烈な負荷をかけることが可能だったのです。
この決定的な差を埋めるため、JRAが総力を挙げて取り組んだのが美浦トレーニング・センター坂路の大規模改修工事でした。2023年10月に運用を開始した新・美浦坂路は、掘り下げ工事によって高低差33m(全長1,200m)へと劇的にパワーアップし、栗東をわずかに上回るタフなレイアウトへと生まれ変わりました。
改修の効果は運用直後から如実に現れました。美浦所属馬のトモ(後肢)の筋肉量が目に見えて向上し、ラスト1ハロンの失速が激減。直線坂のある東京競馬場や中山競馬場はもちろん、平坦な京都競馬場でも鋭い末脚を発揮する馬が急増しました。2026年現在、調教コースそのもののスペック差は完全に解消され、施設面における美浦のディスアドバンテージは過去のものとなっています。
【外厩と輸送】ノーザンファーム天栄・しがらきの役割と関東馬・関西馬の輸送負担

現代競馬の勢力図を語る上で欠かせないのが、トレセン近郊に位置する「外厩(がいきゅう)」と呼ばれる民間育成牧場の存在です。特にノーザンファームが擁する東西の2大拠点、「ノーザンファームしがらき(滋賀県)」と「ノーザンファーム天栄(福島県)」は、トレセン以上の設備と技術で競走馬を仕上げる重要な役割を担っています。
外厩戦略の進歩により、トレセン入厩前にレースを使える状態まで仕上げるシステムが確立。これにより、トレセンの施設差が競走成績に与える影響が分散されました。特に天栄の高度なトレッドミル調教や坂路の活用は、美浦所属馬のベースアップを強力に支える要因となっています。
さらに見逃せないのが「輸送負担」の差です。かつては東京や中山の大レースであっても、強い関西馬が当日輸送や前日輸送をものともせずに関東遠征で勝利を収めていました。しかし、美浦所属馬の地力底上げに伴い、長距離輸送による疲労や馬体重の増減が勝敗を分ける決定的な要素として再浮上。関東圏のG1においては、自ブロックでゆったり調整できる美浦馬のアドバンテージが明確に復活しています。
【数字で見る逆襲】栗東・美浦のG1・重賞勝率比較と所属騎手・調教師の成績推移
長年続いた栗東の独走状態は、数字の上でも変化を見せています。かつては年間G1の7〜8割を関西馬が占め、重賞勝利数でもダブルスコアに近い開きがありました。しかし、直近の成績データを分析すると、その勢力均衡は明らかです。
美浦のトップ厩舎がクラシック戦線や古馬中長距離G1で主役を張り続け、年間重賞勝率でも東西がほぼ5対5の拮抗状態を保つシーズンが増加。特にイクイノックスやリバティアイランド以降の世代交代期を経て、美浦の有力厩舎が輩出するエース級の質は栗東を凌駕する場面も珍しくありません。
また、人的資源の流動化も東西差の是正を後押ししています。クリストフ・ルメール騎手が美浦所属馬を中心に騎乗して圧倒的な数字を残し、若手・中堅の関東所属騎手も技術向上とともに勝ち星を量産。関西馬への騎乗依頼に依存せずとも、自ブロックのトップステーブルと強固なパイプを築ける環境が整ったことが、美浦全体の士気と勝率を底上げしています。
【滞在競馬と遠征】北海道シリーズから見る東西の適応力と戦略の違い
函館や札幌で開催される夏の北海道シリーズは、トレセンから離れた環境でレースに臨む「滞在競馬」のノウハウが試される舞台です。この北海道遠征において、かつては栗東の厩舎が圧倒的な強さを誇っていました。栗東トレセンの高い競争率を勝ち抜いた馬が滞在し、涼しい環境で連勝街道を突き進むケースが多発していたためです。
しかし、美浦の厩舎群も滞在競馬のマネジメントを急速にアップデートさせました。早めの北海道入りによる環境適応や、現地での追い切り負荷の精密なコントロールを確立。その結果、洋芝適性を生かした美浦所属馬が函館記念や札幌記念などの主要重賞を制する確率が急上昇しています。
遠征競馬を特別視することなく、馬の体調管理を科学的に行うノウハウが美浦側にも完全に定着したことで、季節や舞台を問わないオールラウンドな戦いが可能になっています。
【2026年最新勢力図まとめ】東西格差は完全解消されたのか?これからの競馬界
2026年現在の日本競馬において、「栗東だから買い、美浦だから消し」という単純な東西の色分けは完全に通用しなくなりました。ハードウェア面(坂路やポリトラックなどの調教施設)の格差はフラットになり、東西の戦いは「厩舎個別の育成哲学とマネジメント能力の差」を競うステージへと完全に移行しています。
栗東は矢作芳人厩舎や中内田充正厩舎をはじめとする先進的なチームマネジメントで常に世界を見据え、美浦は木村哲也厩舎や手塚貴久厩舎などが精密なローテーションと外厩連携で国内外のビッグタイトルを掴み取っています。東西がハイレベルな切磋琢磨を繰り広げる今の構図こそ、日本競馬が世界最高峰のレベルを維持し続ける最大の原動力です。
【栗東・美浦】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:競馬予想において、現在でも「栗東所属(関西馬)」を重視すべきですか?
A1:一律に関西馬を優遇する予想手法は現在では推奨されません。美浦坂路の改修以降、関東馬のフィジカル面の弱点は解消されています。東西の所属ではなく、個別の厩舎成績や外厩からの帰厩初戦かどうか、輸送距離の有無を基準に判断するのが的確です。
Q2:美浦坂路の改修で何が一番変わったのですか?
A2:高低差が従来の18mから33mへと大幅に拡張され、栗東と同等以上の負荷をかけられるようになりました。これにより、レース終盤の急坂や直線での踏ん張り、競り合いにおけるスタミナとパワーの不足が解消されました。
Q3:トレセン所属の騎手は東西で自由に行き来して騎乗できますか?
A3:はい、現在では多くのトップ騎手が東西の垣根を越えて遠征騎乗を行っています。特に週末の重賞レースでは、関東の有力騎手が阪神や京都へ、関西のトップ騎手が東京や中山へ遠征することが日常化しており、人脈や騎乗馬の質による東西の固定化は薄れています。
まとめ:美浦の逆襲がもたらす日本競馬の新たな黄金時代
長きにわたり競馬サークルを規定してきた「西高東低」の格差は、施設の刷新と関係者の飽くなき努力によって劇的な幕引きを迎えました。栗東が築き上げた調教メソッドに美浦が施設改修と戦略で追いつき、今や両者は完全に互角のライバル関係にあります。
競走馬の能力を極限まで引き出す東西の調教技術の競い合いは、日本調教馬の国際的な地位をさらに高めるはずです。週末の競馬新聞を開く際は、単なる「栗東・美浦」の枠組みを超えた、各厩舎の創意工夫と熱いドラマにぜひ注目してください。 (出典: 栗東 美浦(Yahoo!ニュース))